大阪高等裁判所 平成4年(行コ)7号 判決 1992年10月20日
京都市山科区川田欠ノ上三二番地の一九
控訴人
小島久夫
右訴訟代理人弁護士
小川達雄
京都市東山区馬町通東大路西入る新シ町
被控訴人
東山税務署長 山本安弘
右指定代理人
杉浦三智夫
同
竹田優
同
西教弘
同
久保日出夫
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の申立
1 控訴の趣旨
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人が、控訴人に対し、昭和六〇年三月一日付けでそれぞれした、控訴人の昭和五六年分の所得税の総所得金額を四八六万七六一三円、同五七年分の所得税の総所得金額を七四二万二〇七二円、同五八年分の所得税の総所得金額を六二八万〇五九〇円とした各更正処分及び右各年分の過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和五六年分は、いずれも異議決定による一部取消後のものをいう)のうち、総所得金額につき、昭和五六年分は二七八万五三〇〇円、同五七年分は二八六万八〇〇〇円、同五八年分は二一一万八九四七円をそれぞれ超える部分をいずれも取り消す。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次に付加、訂正する外は、原判決事実摘示に記載のとおりであるから、これを引用する。
1(一) 原判決二枚目裏初行の「本件各処分には、」を「本件各処分は、」と改め、同五枚目表八行目の「平均算出所得率を用いて」を「平均算出所得率による」と改める。
(二) 同六枚目裏七行目の「(三)(1)」から同七枚目表初行の「争う。」までも、次のとおり改める。
「(三)(1) 同(二)(2)は争う。
(2) 同(二)(3)イの係争各年分の控訴人の売上金額のうち、昭和五八年分の売上金額を認め、その余を否認する。
(3) 同(二)(3)ロの算出所得金額の主張をいずれも争う。
(4) 同(二)(3)ハの特別経費、同(二)(3)ニの事業専従者控除額をいずれも認める。
(5) 同(二)(3)ホの事業所得金額の主張をいずれも争う。」
2(一) 控訴人の主張
(1) 質問検査調査権行使の違法
<1> 所得税法二三四条の定める質問検査権の行使として行われる税務調査は、任意調査であるから、調査に応ずるか否かは、被調査者である納税者の事由な意思に委ねられている。また、税務調査は、被調査者の営む事業や生活に支障を及ぼし、大なり小なり納税者の利益を損ねる性質のものである。したがって、税務調査においては、税務職員の自由な裁量に委ねられるべきものではなく、調査について、客観的な必要があると判断される場合であって、かつ、その権限も、調査の客観的な必要性と被調査者の事業や生活上の利益との比較均衡において、社会通念上相当と認められるものでなければならない。
そして、調査の必要性の有無とその程度は、抽象的なものではなく、具体的事情に基づいて判断されるべきものであるから、税務調査を行う職員は、被調査者の事業や生活に対する具体的な配慮を払いつつ質問検査を行うべきである。しかるに、本件調査は、調査らしい調査を行っていない上に、右任意調査の範囲を逸脱して行った違法な調査である。
<2> そもそも、税務調査を受ける者は、税法や税務に精通していないものがほとんどであり、課税処分を目的とする税務職員の質問調査に充分に対応し、自己の権利や利益を守る知識も手段もないのが通常である。しかも、税務調査は、任意調査とはいえ、権力を背景に行われるものであるから、不当な調査が行われないように、これを監視し、被調査者に助言を与え、調査の誤りを是正する上で、第三者の立会が必要不可欠である。本件において、被控訴人の担当者は、昭和五九年一一月七日及び同月一四日の両日の調査において、具体的な調査は何らせず、専ら同席していた第三者の退席を求めることに終始し、控訴人側がこれに応じないとみるや、一方的に調査を打ち切っている。このような調査は、違法というべきである。
<3> さらに、被控訴人の担当者は、昭和五九年一〇月一四日、事前の連絡もなしに突然控訴人方に来て、応対した控訴人の妻に対し、理由も示さず、一方的に所得税の調査を行う旨通告している。このような調査は違法な調査である。
(2) 推計の違法
<1> 本来、所得税は、実額による課税が原則であって、推計による課税は、実額による課税ができない場合に、やむを得ず用いられる課税方法であるから、推計課税を行うについては、推計の必要性のあることがその適法要件である。
本件において、控訴人に対して行われた調査は違法なものであり、また、実質的に調査の名に値する調査は行われていないから、推計課税の必要性がないというべきであって、本件の推計課税は、この点において、違法というべきである。
<2> また、同業者所得率をもって推計をする場合には、その前提として、当該同業者が、その業種、業態について、具体的な類似性を有することが必要である。そして、右類似性を有するというためには、同業者の実在性、データの正確性はもとより、営業規模、営業内容、立地条件等、所得に影響を及ぼす諸条件の類似性が明確に立証されることが必要であるところ、本件においては、被控訴人の主張する同業者の正確な住所、氏名が明らかでないため、業種、業態、地域などの点において、どの程度の類似性を有するか全く不明である。
したがって、本件における控訴人の所得の推計には、合理性がなく、違法である。
(二) 被控訴人の認否
控訴人の右主張は争う。
三 証拠
原審及び当審の訴訟記録中、各証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがなく、第三者の立会拒否、調査理由の開示をめぐる本件各処分の適法性、推計課税の必要性、推計の合理性、推計の方法による事業所得金額に関する当裁判所の認定、判断も、原判決一〇枚目表七行目から同一三枚目裏六行目までに記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決一三枚目表初行の「主張(二)(2)イ」を「主張2(二)(3)イ」と、同三行目の「乙第二九号証の一ないし第四三号証」を「乙第二九号証の一、二、第三〇号証、第三一ないし第三三号証の各一、二、第三四号証、第三五号証、第三七号証の一、二、第三八ないし第四三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三六号証の一ないし二四」と、同一〇行目の「主張二2(二)(2)ロ」を「主張2(二)(3)ロ」と、同一三枚目裏二行目の「主張(二)(2)ハ」を「主張(二)(3)ハ」と、同五行目の「主張二2(二)(2)ホ」を「主張2(二)(3)ホ」と、各改める。)
二1 なお、
(一) 控訴人は、所得税法二三四条の定める質問検査権の行使として行われる税務調査は、任意調査であるから、調査に応ずるか否かは被調査者である納税者の自由な意思に委ねられているとし、右調査は、客観的な必要性がある場合であり、かつ、その限度は、右必要性と被調査者の事業や生活上の利益との比較衡量において社会通念上相当と認められるものでなければならないのに、本件における調査は、調査らしい調査を行っていない上に、右に反する違法な調査であると主張する。
しかしながら、成立に争いのない乙第二ないし第四号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二八号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、(1) 控訴人の提出した本件各係争年度分の確定申告書には、所得金額欄に金額が記載されているだけで、収入金額や経費も記載されていなかったし、収支明細書も提出されていなかったため、被控訴人において、控訴人の右申告の真実性、正確性を確認することができなかったので、控訴人に対する質問検査等の調査をする必要があったこと、(2) 右調査にあたっては、被控訴人の担当者は、第一回目のときは、予め連絡をせずに、控訴人方に赴いたが、控訴人が不在であったので、控訴人の妻に、昭和五六年分から昭和五八年分までの所得税の調査に来た旨を告げ、控訴人に調査のできる日を連絡するよう伝えて帰ったこと、(3) そして、その後は、被控訴人の担当者が、電話で、控訴人の都合のよい日を打ち合わせた上、控訴人方に赴き、控訴人の協力を得て調査をしようとしたが、控訴人の協力が得られなかったので、充分な調査ができなかったこと、以上の事実が認められる。
そうとすれば、被控訴人において、控訴人の昭和五六年分ないし昭和五八年分の所得税の調査をする客観的な必要性があり、かつ、その方法は、右必要性と被調査者の事業や生活上の利益との比較衡量において社会通念上相当な範囲内のものであったというべきであるから、右の点に関する控訴人の主張は、採用できない。
(二) また、控訴人は、被控訴人の担当者が右調査をするに当たり、調査方法の事前通知をなさず、調査の理由も明らかにせず、第三者の立会を拒んだこと等、種々の理由をあげて、右調査は違法であると主張する。
しかし、所得税の調査に当たり、事前に調査の連絡をしなければならないものではないのみならず、本件においては、前記のとおり、被控訴人の担当者が、控訴人に対し、事前に調査の通知をしなかったのは、控訴人方に第一回の調査に赴いたときだけであり、かつ、そのときには、控訴人が不在であったので、調査をせずに帰っているのであるし、また、現行法上、所得税の調査に当たり、第三者を立ち会わせるべき旨の規定はないから、第三者を立ち会わせなかったからといって、そのことが権利の濫用とならない限り、違法とはいえない。
したがって、右の点に関する控訴人の主張も理由がない。
2 次に、
(一) 控訴人は、控訴人に対する充分な調査をせず、推計の必要性もないのに、推計を行ったものであるから、右推計は違法であると主張する。
しかし、前記1の(一)の事実に、前掲乙第二ないし第四号証、第二八号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、被控訴人の所得税の調査に協力をせず、かつ、控訴人の提出した本件各係争年度分の確定申告書の内容が不十分であった上、控訴人において、右所得の内容を明らかにする資料を提出しなかったので、被控訴人において、推計により、本件各課税をしたことが認められるから、右推計に控訴人主張のような違法はない。
したがって、控訴人の右主張も理由がない。
(二) また、控訴人は、同業者所得率をもって推計するには、その前提として、当該同業者の業種、業態等について具体的な類似性を有することが必要であるのに、本件では右類似性が明らかではない等、種々の理由を挙げて、前記推計は違法であると主張する。
しかし、同業者所得率による推計課税は、所得額が実額で把握できない場合に、同業者の所得率を用いて推計によれ得られた蓋然的近似値を、一応の真実の所得額として課税をするものであるから、同業者の業態等が細部に至るまで一致している必要はなく、その主要な点において、類似しておれば足りると解すべきところ、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第五ないし第一四号証、原審証人東好信の証言、並びに、弁論の全趣旨によれば、控訴人の同業者として、管工事業を営む個人業者で、青色申告をしている者等、原判決一二枚目表一行目から同一一行目までに記載の基準に合致する者を選んで、その同業者の平均所得率を算出したものであることが認められるから、たとえ同業者の氏名や住所が明らかにされなくても、その業種、業態等について、具体的な類似性があるというべきである。
そして、右同業者の所得率を用いてした推計が適法であることは、前記認定のとおり(原判決一一枚目裏四行目から同一二枚目裏九行目まで)であるから、控訴人の右主張は採用できない。
二 控訴人の実額反証の主張について
控訴人は、昭和五八年分の事業所得につき、実額反証の主張をするので、念のため、これについて判断する。
1 売上金額について
(一) 控訴人は、昭和五八年分の売上金額につき、被控訴人が推計の前提として主張する売上金額(六三五八万九七五七円)を認めると陳述するのみで、これが同年分の洩れのない売上総額であることを立証せず、また、これを認めるに足りる的確な証拠はない。
却って、控訴人本人は、原審における本人尋問において、昭和五八年分の収支計算書写し(乙第一六号証の二)のほかは、これを確認し得る資料がないとか(原審記録一五五四丁)、被控訴人主張の右売上金額は、正確ではないが、控訴人の申告額とほぼ一致したので、被控訴人の主張を認めることにしたと述べるのみである(原審記録一五七九ないし一五八〇丁)。そして、乙第一六号証の二によれば、右収支計算書写し(乙第一六号証の二)は、メモ書きの集計表で、これには、昭和五八年分の売上金額が六一一九万二六七五円であるとの記載のあることが認められるが、原審証人小島靖子及び控訴人本人の原審における各供述によれば、これは領収書の金額を集計したものにすぎないことが認められるから(原審記録一四六七丁、一五二五丁)、右乙第一六号証の二に記載の金額は、領収書のないものも含めた洩れのない売上金額の実額といえないばかりか、この金額自体、控訴人が認めている被控訴人主張の売上金額六三五八万九七五七円よりも少ないものであり、右収支計算書写しは、売上総額の実額を裏付ける証拠とはなり得ない。
(二) また、一般に、所得実額の反証をもって被控訴人の推計を争うためには、売上及び経費の双方につき、洩れのない総額の実額を主張立証して、正確な洩れのない所得の実額を証明しなければならないものと解するのが相当である。被控訴人が、推計の前提として主張する売上額は、反面調査などで把握し得たいわば売上額の最小限であって、控訴人が実額反証により主張すべきいわば売上額の最大限とは異なるのであるから、控訴人としては、被控訴人の右主張額を認めるだけでは足りず、控訴人において帳簿書類を提示しないなど推計の必要性が認められる以上、控訴人の係争年度における正確な一切の帳簿書類を提出し、これにより求められる売上額の総額が、洩れのない正確なものであることを主張、立証すべき責任があるというべきである。
したがって、控訴人の本件実額反証は、洩れのない売上総額を主張立証しない点で、すでに失当であって、採用することができない。
2 仕入金額について
次に、控訴人は、昭和五八年の仕入金額は、原判決添付別表甲4に記載のとおり、合計二一〇三万二二九〇円であると主張するが、以下のとおり、そのうち、一六九万一三四七円は、昭和五八年分の仕入金額であると認めることはできない。
(一) 成立に争いのない甲第一六、第一七、第五一号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、仕入等の振込による支払の際に支払った支払手数料は、雑費に計上しているところ、浅井商店の七月分七万一〇〇〇円、九月分二万一〇五〇円、及び、株式会社関西機工商会の一〇月分一万七〇〇〇円のなかには、支払手数料各六〇〇円が含まれているから、その合計一八〇〇円を右仕入金額からさし引くべき関係にあることが認められる。
(二) 成立に争いのない甲第一号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一〇六三ないし第一〇七二号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、本川産業株式会社の一月分四万三七五〇円(甲第一号証)は、昭和五八年分ではなく、昭和五七年の仕入れであることが認められ、(2) 成立に争いのない甲第二二、第四四、第四五、第七五号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一二一四、第一三五〇、第一三五一号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、株式会社マンモトの一月分三万〇九六四円(甲第二二号証)、芳善商会の一月分三万六七一〇円(甲第七五号証)、及び、人見金属工業の二月分四二〇三円(甲第四四、第四五号証)は、いずれも昭和五七年の仕入れであることが認められ、(3) 成立に争いのない甲第一二号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一一〇三ないし第一一一六号証、並びに弁論の全趣旨によれば、株式会社浅井商店の一月分二〇万円(甲第一二号証)のうち一三万五四二〇円は、昭和五七年分の仕入れであることが認められ、(4) 弁論の全趣旨により成立を認める甲第一一一七号証ないし第一一一九号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、浅井商店の二月分三〇万円のうち一三万八五〇〇円(甲第一一一八号証と甲第一一一九号証の合計)は、昭和五七年分の仕入れであることが認められ、(5) 成立に争いのない甲第三一号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一三一〇、第一三一一号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、株式会社井尻商会の一月分一三〇万円(甲第三一号証)は、昭和五七年分の仕入れであることが認められる。
そうすると、右(1)ないし(5)の合計一六八万九五四七円は昭和五八年分の仕入れではないというべきである。
3 経費について
控訴人主張の経費のうち、少なくとも、次の合計七一五万五六九二絵は、控訴人がその事業のために支出したものとは認め難い。
(一) 公租公課について
(1) 成立に争いのない甲第九八号証、原審証人小島靖子の証言によれば、控訴人提出の郵便料金受領証(甲第九八号証)には、通関料八〇円の記載があるが、控訴人は海外との取引がないこと(原審記録一四四〇丁)が認められるので、右通関料八〇円は、控訴人の事業の経費とは認められない。
(2) 成立に争いのない甲第一二一号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和五八年に、その主張にかかる乗用車分の自動車税三万四五〇〇円を支払ったこと(甲第一二一号証)が認められるが、右乗用車使用の事業割合が五〇パーセントであることは当事者間に争いがないから、右三万四五〇〇円の半額の一万七二五〇円は、事業に必要な経費とは認め難い。
(二) 保険料について
成立に争いのない甲第三一五ないし第三一八号証によれば、控訴人は、四台の自動車の自動車損害賠償責任保険料として、昭和五八年に、合計八万三三五〇円を支払っていることが認められるけれども、そのうち乗用車の支払保険料三万二六五〇円(甲台三一七号証)については、前示のとおり、乗用車の事業専用割合が五〇パーセントであるから、少なくともその半額の一万六三二五円は、事業に必要な経費とは認め難い。
(三) 修繕費について
(1) 成立に争いのない甲第三一九号証、第三二六号証、第三二九号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一三五三号証、第一三五四号証、第一三五七号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和五八年中に、その保有する乗用車の修繕費として一五万九一一〇円を支払ったことが認められるが、前記のとおり、控訴人の乗用車の事業専用割合は五〇パーセントであるから、右一五万九一一〇円のうち半額の七万九五五五円は、事業に必要な経費とは認め難い。
(四) 雇人費について
(1) 控訴人は、昭和五八年分の雇人費の実額を九三一万一〇〇〇円と主張するところ、成立に争いのない甲第八五四号証の一、二、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一六号証の一、二、第二〇号証、原審証人小島靖子の供述(原審記録一四九六丁以下)によれば、控訴人は、昭和五八年分の雇人費として、源泉徴収している二名(井ノ本憲一郎、山下正一)に対し、合計五五九万五〇〇〇円を支払ったことが認められる。
(2) しかしながら、右認定の五五九万五〇〇〇円を超える三七一万六〇〇〇円について、控訴人本人は、原審における本人尋問において「源泉していない分も雇人費に計算に入れたからこの差額が出ている。」と供述しており(原審記録一五八一丁)、控訴人は、その主張する西村忠雄、石田修一、芝辻邦雄、桑原弘之に対する雇人費の裏付証拠として、給料支払明細書(控)(西村につき、甲第九一二、第九一六、第九一九、第九二三、第九二六、第九二九号証、石田につき、第九一三、第九一七、第九二〇、第九二五、第九三一号証、芝辻につき第九一一号証、桑原につき、第九一八、第九二四、第九二七、第九三〇号証)、右四名作成の証明書(甲第八三九、第八四三、第八四七、第八五一号証)及び日報(西村につき、甲第八四〇ないし第八四二号証、石田につき、第八四四ないし第八四六号証、芝辻につき、第八四八ないし第八五〇号証、桑原につき、第八五二、第八五三号証)を提出しているが、控訴人本人の右供述及び右各書証の記載内容は、たやすく信用できない。その理由は、次に付加する外は、原判決一七枚目表九行目から同裏七行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
<1> 前掲乙第一六号証の二、第二〇号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、被控訴人の担当者が、控訴人方に赴いて、所得税の調査をした際に、控訴人は、控訴人方の昭和五八年分の雇人費は五五九万五〇〇〇円であると説明していること(乙第一六号証の二)、控訴人の妻が作成した給与所得等支給状況内訳表(乙第二〇号証)にも、控訴人方の雇人費は五五九万五〇〇〇円であると記載されていること、右原審証人小島靖子の証言中には、控訴人方の雇人費は、九三一万一〇〇〇円ではなく、五五九万五〇〇〇円であると証言している部分があること(原審記録一四九七丁以下)等の事実が認められる。
<2> 弁論の全趣旨により成立の認められる甲第八五五ないし第九五二号証、並びに、弁論の全趣旨によれば、前記給料支払明細書(控)は、(a) 給料算定の基礎となる「労働日数」「所定時間外労働(時間数)」の記載がないこと、(b) 右四名の中途採用者のうち、西村、石田、桑原の三名は、採用時から給料支払明細書が作成されているのに対し、芝辻は、退職時の九月のみで、五月から八月までは作成されていないこと、(c) 芝辻の九月分の基本給は、給料支払明細書(控)(甲第九一一号証)では、二八万円であるが、証明書(甲第八四七号証)では二七万円となっており、また、日報(甲第八五〇号証)では九月二一日以降も勤務実績があるにもかかわらず、その後の給料の支払がなされた形跡は窺えないこと、(d) 交通費の支給の有無、支給額、支給の時期の点で各人につきばらつきがあり、一貫性がないこと、以上のような事実が認められるところ、右の諸点から、右給料支払明細書、日報等は、その当時正確に記載されたものとはたやすく認め難い。
<3> 次に、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第八三九、第八四三、第八四九、第八五一号証、原審証人小島靖子の証言、並びに、弁論の全趣旨によれば、甲第八三九、第八四三、第八四九、第八五一号証の各証明書は、西村忠雄ら雇い人が金額を確認して作成したものではなく、控訴人において作成の上署名捺印を求めたものであり(原審記録一四二七丁、一四三一丁)、しかも、給料支払日から数年を経過した平成元年一月に作成されたものであって、その記載内容についても、前記<2>(c)のとおり、基本給について給与支払明細書のそれと食い違っているものもあるし、また、各月の合計額が誤っているもの(甲第八五一号証)があることが認められ、その記載内容の正確性に疑問があるので、右記載内容は、到底信用することができない。
<4> さらに、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第八四〇ないし第八四二、第八四四ないし第八四六、第八四八ないし第八五〇、第八五二、第八五三号証によれば、右甲号各証の日報には、西村、桑原の両名について、それぞれ九月、一〇月の中途採用にもかかわらず、当該月の日報に独立の欄を設けた上で記載されている(甲第八四〇、第八五二号証)のに対し、芝辻は、四月二二日に入社と記載してあるにもかかわらず、五月に同人の欄が設けられていないこと(甲第八四八号証)が認められるところからすれば、右日報が真実の内容を記載したものとは認め難い。
(3) 以上のとおりであって、控訴人主張の雇人費のうち、三七一万六〇〇〇円について、控訴人提出の右各証拠は、いまだこれを証するに足りず、そして、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
(五) 外注工賃について
(1) 成立に争いのない甲第七一三、第七一四、第七四五、第七七三号証(但し書の部分は除く)、第七七四号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第七四二、第七七五、第八〇二、第一四〇一、第一四三四ないし第一四三七、第一四六一、第一四七九号証、原審証人小島靖子の証言(原審記録一四九二丁以下)によれば、外注工賃の支払についても、期首・期末の未払金が未調整のものがあり、正しい期間計算(一月一日から一二月三一日まで)がなされていないところ、(a) 五麗エンジニアリングの一月分二六万二五〇〇円及び二月分一三〇万円のうちの三〇万円、計五六万二五〇〇円(甲第七一三、第七一四、第一四〇一号証)、(b) 畑追敬文の一月分一一〇万六〇〇〇円(甲第七四二、第一四三四、第一四三五号証)、(c) 萩田民雄の一月分六七万八〇〇〇円及び二月分五三万六〇〇〇円のうちの二七万円、計九四万八〇〇〇円(甲第七四四、第七四五、第一四三六、第一四三七号証)、(d) 高倉清の一月分四八万八三一円(甲第七七三号証)、(e) サン工業の一月分一六万八〇〇〇円(甲第七七五、第一四六一号証)、(f) 井川和男の二月分二万五六〇〇円(甲第八〇二、第一四七九号証)、以上の合計三二九万八四八一円は、いずれも昭和五七年分の外注工賃であって、昭和五八年分の外注工賃ではないことが認められる。
(2) 成立に争いのない甲第三三号証、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一四一五号証によれば、大迫設備からの請求書のうち、八月二日付けトラックフロントガラス代二万八〇〇〇円は、修繕費(甲第三三三号証)と二重計上であることが認められる。
5 以上のとおり、原判決添付別表甲2に記載の控訴人主張の昭和五八年分の仕入金額、経費額等のうち、控訴人が昭和五八年分の事業のために支出したとは認められない額は、少なくとも、仕入金額一六九万一三四七円、公租公課一万七三三〇円、保険料一万六三二五円、修繕費七万九五五五円、雇人費三七一万六〇〇〇円、外注工賃三三二万六四八一円、以上合計八八四万七〇三八円となる。
そして、控訴人主張の仕入金額、経費等の合計六一四六万六二五六円から右八八四万七〇三八円を差し引いた残額五二六一万九二一八円が、控訴人の昭和五八年分の仕入金額、経費等であるとしても、右金額を控訴人主張の売上六三五八万九七五七円から、差し引いて算出した所得金額は一〇九七万〇五三九円となり、これは、被控訴人の更正処分にかかる所得金額六二八万〇五九〇円を優に超えていることが明らかである。
そうすると、本件各処分は、以上認定の控訴人の事業所得金額の範囲内でなされたものであるから、被控訴人が、控訴人の所得金額を過大に認定した違法はない。
三 よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は、相当であって、本件控訴は、理由がないので、これを棄却し、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 松村雅司 裁判官 小原卓雄)